カッパの水神薬−白馬の民話

白馬村大出にいたずら好きのカッパがいたそうです・・・


ホテルから程近い、お散歩にもオススメのスポット、大出集落・大出吊橋周辺が舞台のお話です。
このお話を読んだ後は、大出の公衆トイレを使うときに気をつけてください・・・。

白馬村を流れる姫川の近くの大出部落に、善右衛門という人がいました。

ある夜のことでした。
善右衛門の嫁であるとめが便所に入っていると、お尻のあたりをなでるものがあります。 とめは一瞬背筋が寒くなりましたが、 気を取り直し穴を覗きこんでみるとどうやら手のようでした。あまりにおかしな出来事に善右衛門にも話さず黙っていました。
ところがそれから毎晩便所に入るたびに手が出るので、ついに困って善右衛門にそのことを相談しました。
「あの、実は変な話だが、おれが便所へ入るたんびに冷たい手がおれのお尻をなでて、困るだわいね。なんとかならねえもんずらか」
そういうと善右衛門は
「そいつはきっとカッパだ。よその家でも困っていると相談されていたところだ。ようしおれがこらしめてくれるで、おまえの着物をかせろ」
と手ぬぐいでほおかむりをし、着物を着て便所に入りました。

白馬を代表する景勝地・大出の吊橋
景勝地として有名な大出の吊橋

すると確かに手がお尻を触ります。しばらく我慢して善右衛門は「それっ」とその手を引っ張りました。
突然の出来事でしたが「きゃー」と言う声と共に腕がすっぽりとれました。やはりカッパの腕のようでした。

次の朝、二人がごはんを食べていると裏口から悲しそうな顔をしたカッパが入ってきました。
「わたしは姫川の姫ヶ淵に住むカッパです。もういたずらをしませんから、どうか腕をかえしてください」
と言いながら何度も頭を下げました。
しかし善右衛門は
「お前のためにこの大出の衆がどれだけ困っていたか知ってるか。今さらあやまったって誰がかえしてやるか、とっととけえれ」
と追い返してしまいました。

それから毎日カッパはやってきましたが、ついに六日目の朝
「どうか腕をかえしてください。もうあの腕は腐ってしまいつなぐことが出来なくなります。 片腕では魚をとることも出来ず私も死んでしまいます。どうかお願いですからかえしてください。 かえしていただければ私は二度と大出には姿を見せません。それに恩返しに毎日魚を届けます」
カッパがあまりに詫びるので、善右衛門は腕をかえしてやりました。

それから毎朝、戸口の桶には魚がたくさん入っているようになりました。
約束どおり、カッパはあれから姿を見せませんでした。

大出吊橋脇 古径庵
大出吊橋脇、古径庵

そしてしばらく経ったある日、善右衛門は糸魚川に用事ができて出かけたときのことです。
用事を済ませた帰り道、小谷村の来馬の橋を渡りかけた頃
「もし、もし」
と善右衛門を呼ぶ声がします。
ふと川を見ると、やせこけたカッパがじっと善右衛門を見上げていました。
「何のようだ。おれの前に姿を見せない約束だったぞ」
「存じています。実は毎日魚を差し上げていたので私の食べ物がなくなってしまいました。 つきましては魚のかわりに傷薬のよいのを教えます。どうかそれでご勘弁願えませんでしょうか」
「なんだ、そんなことか。わしも魚はもういいと思っていたところだ」
善右衛門はカッパのやせたあまりに哀れな姿を見て、つい承知してしまいました。

家へ戻った善右衛門は、早速カッパから教わった薬をつくりました。
ちょうど、とめが草を刈っていて鎌で指先を切ったので試しにつくったばかりの薬をつけてみました。
するとみるみるうちにキズが治っていきます。
「これはよく効く薬だ。よし、うんとつくって売ってやろう」

そこでこの薬に「水神薬」と名をつけて松本や越後まで売り歩きました。
その薬はすぐさま評判になり、善右衛門は大金持ちになりました。
これもカッパのおかげと家の中に立派な祠をつくり、カッパを祭りました。
それからこの家では代々のご主人が薬を作ってきましたが、何代目かのときに仕事を怠けた上に、 火事にあって代々伝わるつくり方を書いた紙を焼いてしまい、今ではすっかり忘れられてしまったそうです。

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