風切地蔵様−白馬の昔ばなし

白馬村の落倉地区に今でも静かに佇むお地蔵様です。


このお地蔵様はホテルの里山ウォークオプション、
「塩の道ウォーク」にご参加いただくと見ることができます(車窓より)
また、このお地蔵様はレイライン(太陽の方向)という冬至の日の出の方角を向き、
なおかつ小蓮華岳山頂の風切地蔵様、柄山峠の風切地蔵様と地図上で一本の直線を
結ぶといわれ、ちょっとした古代ミステリーな一面を持つお地蔵様としても知られています。

落倉地区にある風切地蔵様
風切地蔵様

むかし白馬村の北のはずれ、落倉はかや場や草刈り場が一面に広がっていて「落倉原」とよばれ、 かやぶき屋根の家がぽつん、ぽつんと建っているだけでした。

その落倉原がひと目で見渡せる小高いところに塩の道が通り、その道端にいつのころからか雨風にさらされて石のお地蔵様が立っていました。
地蔵様の近くに暮らしていたみよは、近所に遊びなかまがおらず、地蔵様がとても大切なともだちでした。毎日のように花を摘んで供えたり、 木の葉を頭にかぶせたりして地蔵様と遊ぶのでした。

みよは今日、地蔵様にこんな話をしました。
「あと、三つ寝りゃ、父ちゃ帰るって。おらにお土産買ったって。なんだべかな」
地蔵様はいつもみよの話をやさしく聞いてくれました。
雪の降るあいだに町の酒屋へ酒造りに行っていた父ちゃが帰ってきます。

お地蔵様はいまでも静かにたたずんでいます
風切地蔵様

みよのおばばは、よくみよに地蔵様の話をして聞かせました。
「この地蔵様は風切地蔵といってなあ、『岳おろし』を鎮めてくれるえれえ地蔵様だ。柄山峠の地蔵様と小蓮華岳の地蔵様の三体で力を合わせなさるってこんだ」

「岳おろし」というのは雪どけの春、村に吹く突風のことで、その風筋によって「平川おろし」「白馬おろし」などと呼ばれ、村の人たちに恐れられていました。
当時はほとんどがかやぶき屋根でしたから、強い風でかやがめくれ、 そこへ風がさらに吹き込むと屋根に穴が開いて家がこわれてしまうことがあったそうです。 ですから風が来ると急いで屋根に上がって縄で止めなければなりません。傾斜がきつい屋根ですので、なかなかむずかしい作業でした。
「父ちゃ帰るまで強い風が吹かないよう、地蔵様どうかお守りくださいまし」
おばばは雪どけの頃になるとこういって地蔵様にお願いするのでした。

しかし、父ちゃが帰ってくる前日の朝、西の山がすっぽり厚い雲におおわれ、いまにも大風が吹きおろしてきそうな雲ゆきです。
「岳おろしが来るぞ」
と向かいのおじじが心配していました。
するとみるみる風が強くなり、裏山がごうごうと鳴りはじめました。家の雨戸はいまにも外れそうです。
おばばは怖がるみよを連れて土蔵へ入りました。その中で二人は地蔵様に向かって
「どうか地蔵様、風をしずめてください」
と一生懸命にたのみました。
水を飲むのもわすれ、食事をするのもわすれ、なんどもなんどもお地蔵様にお願いしました。

さんざん吹きあれた岳おろしでしたが、午後になると下火になりました。
新田地区では家が何軒もつぶれ、大きな木が根こそぎたおされたといいます。八方の蚕のカゴがはるか青鬼まで飛んでいくのを見た人もいました。
神城地区では十三軒もの家がこわれたそうです。

時に昭和四年、四月二十一日のことでした。

五竜の地蔵ケルンも風切地蔵様です
五竜地蔵ケルンの風切地蔵様

岳おろしの話が伝わったのか、みよの父ちゃはその晩に帰ってきました。
家も家族も無事だったのは地蔵様のおかげだと、次の朝三人で地蔵様にお礼をいいに行きました。

大風の片づけをする落倉地区ではその日、父ちゃたちが集まってこんな話をしていました
「えらい風だったようだが、ここは大した被害もなく、けが人も出なかったのは地蔵様のおかげだで、みんなで地蔵様のお祭りをやろうじゃねえか」
と隣の切久保や川内(栂池)地区の人たちにも呼びかけると、五十人もが賛成してくれ、さっそくその年の五月二日にお祭りをすることになりました。

小谷村千国にある源長寺の坊様にお経をあげてもらうよう頼み、地蔵様のまわりの草を刈ってきれいにし、台座もきちんとすえました。
いままでぐらぐらしていた首は改めてかためられ、赤いまえかけや帽子も作ってつけました。

お祭りの日、おおぜいの人にかこまれ、線香の煙をあびている地蔵様はとても立派に見えました。
こんな立派な地蔵様を見るのは初めてで、みよはうれしくてたまりませんでした。
「地蔵様、よかったね。これからも岳おろしから白馬の村を守ってください。それから、おらともずっと仲良くしてください」
みよは折ってきた鶴を供えてお地蔵様にそうお願いしたそうです。

落倉の地蔵祭りはこうして始まったそうです。今では「落倉の風切地蔵」と呼ばれ、白馬そして小谷の多くの人に親しまれています。

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