雪女-白馬の昔話

雪女伝説・・・全国的に有名なお話です


雪女。話を知らなくても名前だけは聞いたことがあるという方が多いのではないでしょうか。

白馬にも古くから伝わっているという民話ですが、全国各地に同じ話が残っているそうです。

全国的に有名になった雪女ですが、実はこんなお話でした。


むかしむかし、ある寒い冬のことです・・・。


木々がすっかり葉を落とし、枝のあいだから白馬岳が神々しいまでに真っ白く見えています。
白馬村でも腕がいいことで有名な猟師の茂作、箕吉は二人暮らし。この親子がある朝※1 くらししを追って北股入へ登っていきました。

二人が何度もやぶをかきわけてなんとか尾根へ出ると、向こうの岩の上に立派なくらししが立っていました。

天然記念物ニホンカモシカ=くらしし
ニホンカモシカ

茂作が鉄砲をかまえようとしたそのときです。
急にあたりが暗くなって、冷たい風が吹き始め雪が舞い始めました。

それを敏感に感じ取った息子の箕吉はくらししを狙い続ける茂作を止め「おとっさま、こりゃひどく荒れるわね。早くけえりましょうや」と告げました。
茂作も「そうだいな。たんとふらねえうちに、猿倉の小屋にでも逃げこむか。よし箕吉や、おれのあとについて来い」そう言ってそこから引き返しました。
そうしているあいだに吹雪はいっそう激しくなりました。二人はやっとのことで猿倉の小屋にたどり着き、いろりに火をつけて食事にしました。
「箕吉や、この荒れはおさまりそうもねえで、今夜はここにとまるだいな。そのうちきっとやむずらで」
「そうするだいね、おら、いろりの火を消さないようにしとくでね。消しちまったらこの寒さで※2しみっ死んじまうで」
茂作はそのまま横になり、ほどなく箕吉も横になりましたが、箕吉はなかなか寝付けません。

箕吉はぼんやりいろりの火を見つめていました。するとぱちんとぼやがはぜて小さな火が顔のほうに飛んできました。

はっ!として起き上がったときです。
小屋の戸がぱたんと開いて、雪風がどっと吹きこんできました。
一瞬そむけた顔を上げると、そこに美しい娘が立っていました。
顔は真っ白に透き通りくちびるだけが赤くもえています。長い髪の毛は水にぬれたように光っていました。
箕吉は声を出そうと思いましたが、声がのどにつまって出てきません。
娘はそのまま茂作に近づくと、霧のような白い息を吹きかけました。
「おいこら、何するだ!」と叫ぼうとしました。
すると娘はきっとふり向いて箕吉を見ながら言いました。
「私はずっとおまえさんたちのあとをつけてきました。おまえさんは猟も上手だし働き者だとも聞いています。 心もやさしい人だから私はあなたを好きになりました。でも今夜おまえさんがここで見たことだけは口に出さないと約束してください。 もし言ったときにはおまえさんの命をもらわなければなりませんから」 娘はそう言うと小屋の外へ消えてしまいました。

どらくらい時間がたったでしょうか。箕吉ははっと目をさましました。いろりの火はすっかり消えていました。そしていつのまにか朝になっていました。
昨夜の吹雪はすっかりおさまり、白馬岳は青空にくっきりと浮かんでいました。
「おとっさま、おきとくれ」
箕吉が大声で叫んでも茂作は返事をしません。とうに冷たくなっていたのです。

静寂の深い森の中を行く
雪深い谷間

それからというもの、箕吉は一人ぼっちのさみしい毎日を送りました。

しばらくたったある冬の吹雪の夜のことでした。
家の戸をとんとんたたく音に気づいて戸をあけると、そこに美しい娘が立っていました。
「旅のものですが吹雪で道に迷い、やっとここまでたどり着きました。どうか一晩だけとめてください」
と疲れきった様子で言いました。
箕吉はなにもできねえがと言いながら娘を家に入れ、火をたいて鍋のお粥を差し出しました。

あくる朝になっても吹雪はおさまりません。
「この降りじゃ外を歩くのはちとむりだわね、どうだね、おさまるまで泊まっていっちゃあ」
箕吉がそういうと、娘もお言葉に甘えてと、初めて笑顔を見せました。
数日に渡って吹き荒れる吹雪でしたが、そのあいだ箕吉は娘といろいろな話をしました。
娘の名は小雪といい、秋に両親が亡くなってしまい、知り合いの家に身を寄せに行くところだったそうです。

そうして七日がたち、ようやくすっかり晴れ渡った空を見て箕吉は言いました。
「いい天気になったけんど、どうだいねえ、おら家にこのままいてくれねえかい。そうしてむらえりゃ、おらうれしいだが」
小雪もほほえみながら言いました。
「おらが知り合いの家に行ったってどうせ邪魔もの扱いされるに決まっています。この家においていただけるのであれば、こんなにうれしいことはありません」
そうして二人は夫婦になりました。


十年が夢のうちにすぎました。
二人の間にはかわいい五人の子が生まれすくすくと育っていました。村の人たちは
「箕吉は幸せもんだいな。きれいな嫁っこもらって。おまけにどこの女しゅうも冬になりゃ『寒くていけねえ』なんていって働かねえが、小雪さはけえってよく働くでな」
「小雪さは十年前とちいっともかわらねえ、※3ふんとに美しいことだ」
と噂して箕吉をうらやんでいました。

ある寒い吹雪の夜のこと。
いろりばたでは子供たちがすやすやと眠っていました。
「今夜はなんて寒いだや、いくら火をくべても背中がぞくぞくしてしょうがねえな。小雪も寒いずらにもっとこっちへ来て火にあたったらどうだや」
あんどんのそばで一心に子どもの着物を縫っていた小雪は
「今は手が離せないから、もう少したったらあたらしてもらうわね」
というだけです。

その時、いろりの火がぱちんと音を立ててはじめ、小さな火の粉がはぜて顔のほうに飛んできました。

はっとして手で火の粉を払いのけた時、箕吉はふと何年も前に猿倉の小屋で父が死んだときのことを思い出しました。
そしてひとりごとのように
「あの時もたしかこんな夜だったいな。猿倉の小屋で吹雪のはげしい音が聞こえ、眠ることもできねえ夜だった。急に戸が開いて・・・。」
と、そこまで言った時です。
「おまえさん、どうかその先を言わないで下さい。わたしはおまえさんならあの時のことをきっと言わない人だと信じていました。 それなのにとうとう約束を破って。。これでもう私たちは終わりです。本当ならおまえさんの命をもらうところですが、 このかわいい子どもたちを見ればそれもできません。ああ、なんでおまえさんはあの時の約束を破ってしまったのです」
泣きながらそう言うと、小雪は戸を開け、はげしい吹雪の中へ消えていきました。
「おら、そんなつもりで言ったんじゃねえだよ、小雪、小雪」
あわてた箕吉は戸口から大声で叫びましたが、その声もごうごうと吹きつける風に消されてしまいました。

静かに明ける厳冬期の朝
寒い冬の早朝

夜が明け、吹雪がおさまったのを見た箕吉は小雪を探すために山へ入りました。 しかしどれだけ探しても二度と小雪の姿を見つけることはできませんでした。
箕吉は吹雪の日になるといつも小雪のことを思い出しては
「小雪や、小雪や」
と呼んでいたということです。


※1くらしし=カモシカ
※2しみ死ぬ=凍え死ぬ
※3ふんと=本当


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